

サイドオーダーズ14 / TEXT:林賢一 PHOTO:嗜好品LAB / 2015.08.04 定食しりとり公式ルール──林賢一
こんばんは。わたくし林賢一は脚本/構成を生業としており、台詞やト書きをパソコンに打ち込んで生活をしているので、極めて雑な言い方をすると、面白いことを考えるのが仕事だ。10年ほどはバラエティ番組の放送作家として糊口を凌いでいたこともあり、その時期は職業柄、たくさんのゲームを考えていた。一番考えるのが楽しかったのは罰ゲームなのだが(今考えると、自分が受けるわけではない罰ゲームを考えてお金をもらうなんて、あこぎな仕事だ)、プライベートでもゲームを考えるのが好きだった。といってもテレビ・ゲームなどではなく、人と向かい合ってプレイができて、できれば小道具など必要なく、言葉のみで遊べて、なおかつシンプルで奥が深いもの。そんなゲームが僕の理想だった。
「定食しりとり」をご存じだろうか。
ふと時間が空いたときや、ダラダラ飲みながらプレイするのにぴったりなゲームなのだが、いまいち認知度が低い。
それもそのはず。自分のまわりで局地的に流行しているだけのローカル・ゲームだからだ。何も用意せずに、すぐに始められるので敷居は低い。ルールもシンプルなので、プレイした人がほぼ100%の確率で、「面白い、もう1回やろう」となる。こんなウケのよいゲームを他に知らない。
そこで今回は、この場をお借りして「定食しりとり公式ルール」を発表したいと思う。
定食しりとり公式ルール
プレイ人数
・何人でも可。3~4人がベストだが、最悪ひとりでもプレイ可能。
ゲームの始め方
・じゃんけんでスタート。勝った者が最後に食した料理または食材をひとつ挙げ、その「しり」をとってしりとりを始める。順番は時計回り。
ゲーム内容
・しりとりに使ってよい言葉は「食材」だけ。「回鍋肉」のような調理済みの「料理」はNG。
・しりとりが3周終わったら、自分が挙げた3つの食材を空想上で調理する。
・そこにご飯orパンを加えて定食を作る。
・調理イメージ時、一般的なキッチン用品や調味料はすべて揃っているものとする。
・各ターンの制限時間は10秒。オーバーすると次のプレイヤーに移り、そのターンの食材はとれないものとする。
勝敗の決定
・自分がとった「食材3つ」と「ご飯orパン」を組み合わせた定食の魅力をプレゼンする。
・プレゼン時、食べる際の情感やシチュエーションを加えてもよい。
・プレゼン後、自分以外の定食で、もっとも「それ食べたい!」と思った定食を「せーの」で指差す。
・もっとも投票の多かったプレイヤーの勝利。
以上、とてもシンプルなので一度やれば絶対に覚えられる。
最後に「ご飯orパン」を選ぶというのがこのゲームの肝であり、2周目あたりで「和」か「洋」どちらかのイメージが定まっているかが勝負の分かれ目となる。
実際にプレイの経緯を見てもらったほうがわかりやすいかもしれない。
以下は、実際に3人でプレイした模様の採録である。ぜひ参考にしてほしい。
つい1時間前に「カレー」を食べたばかりのA君から、「レ」で「定食しりとり」がスタート。
A君「れ? れんこん!」
負けである。
あまりにも定食のゴールを考えすぎた結果、「しりとり」であることを忘れるというパターンだ。
当然、最後に「ん」がついたらアウトで、その食材はカウントされず、次のプレイヤーに移る。
彼は初心者なので、特別に最初からやり直すことにしよう。
気を取り直して再スタート。
A君「れ? レーズン!」
だから負けである。
A君は馬鹿なのだろうか。それとも、レーズンをパンで挟んだサンドウィッチをイメージした自分に酔ってしまったのか。いずれにせよ、おかずをひとつ失うことになる。
いい加減、普通にゲームを紹介したい。不吉な「レ」スタートはやめることにしよう。
もう「あ」からでいいから、A君。
A君「あ? 粗挽きソーセージ」
いきなり美味しそうじゃないか。
続いてはB君。「しり」が濁点などの場合は「じ」でも「し」でもOKだ。
B君「し? ……しらす!」
ご飯に合いそうなナイス・セレクトである。こんな風にゲームが続き、3周を終え、結果としてこうなった。
A君 | B君 | C君 | |
---|---|---|---|
1周目 | 粗挽きソーセージ | しらす | するめ |
2周目 | めかじき | キッコーマンの醤油 | ゆず |
3周目 | スイカ | 缶ビール | ルッコラ |
制限時間が10秒しかないため、焦ってとんでもない食材が飛び出す場合も多い。
そして、これは盲点なのだが「缶ビール」のようにお酒を入れたって構わない。トータルとして美味しそうであればOK(このあたりの細かいルールはやりながら微調整するのも醍醐味なので、それぞれのロカール・ルールをぜひ作ってみてほしい)。
ここにそれぞれが「ご飯orパン」を加えれば、オリジナル定食の完成だ。
それでは完成形を見てみよう。まずはA君から。
れっきとしたおかず「粗挽きソーセージ」と「めかじき」がふたつもある。その隣にご飯。ソーセージとご飯の食い合わせがあまりよくない気がするが、「めかじきの煮付け」は理想的だ。そしてデザートは、唐突にスイカ。
まぁ、悪くはないが、特別魅力的な組み合わせというわけでもない。
続いてはB君。
隙が見つからない。ご飯の上にしらすを乗せ、そこに醤油をたらす。間違いなく美味しい。そして、その横にはビール。シンプルで好感の持てる組み合わせではないか。
ただし、ルール的には調味料は事前に揃っているという設定なので、本来であればもうひとつ食材を追加できたはずなのが悔やまれる。とはいえ、定食の完成度はかなり高い。これは勝利決定か?
だが、このゲームのもうひとつの肝は「プレゼン」だ。プレゼン次第では、まだまだ勝利を狙える。
ラスト、C君はナイス・プレゼンでB君を超えられるのだろうか?
C君(←ちなみに唯一の後輩)のプレゼンはこうだ。
「まず、するめとルッコラをミキサーにかけるんすよ。このペーストが異様な旨みを引き出すんすよねー! で、それを焼いてハンバーグ風にするのってイメージできます? 実際に食べればわかるんですけど、超旨いんっすよ。で、そのペーストをフランスパンに挟んで、焼いたゲソの部分を飾ったりして、最後にゆずをまぶせば、『するめとルッコラの和風サンドウィッチ、ゆず添え』の完成です! 結果、アリじゃないっすか?」
う、うーん。強引だが嫌いじゃないぞ。確かに、恐いもの食べたさで、だんだんとアリな気がしてきた。B君の圧倒的勝利かと思われたが、C君のプレゼンにより勝負は拮抗してきた。
そして、最後に投票タイム。自分以外の食べてみたい定食に1票を入れる。
気になる結果は……
A君=0票 | B君=1票 | C君=2票 |
---|
まさかのC君が大逆転勝利となった。
「定食しりとり」にはこういった想定外の結末になることがある。未知の食は強い、といったところだろうか。
また、「定食しりとり」は、このように3人でプレイすることもできるが、ひとりぼっちでやれるというのも魅力だ。たとえば、仕事を終えて帰宅途中、こんな風に呟きながら歩くことだってできる。
今日、昼って何食べたっけなー。あ、「焼きそば」か。
「ば」……、え~っと、「馬肉」!
「く」……、く、でしょ……「くるみ」!
「み」……、「み」? ……「水菜」!
いっしょにイメージして欲しい。
この定食を食べるシチュエーションは、高級ホテルのモーニング・サービス。
あなたは今、半年かかって口説いた彼女と初めての朝を迎えている。ベッドの中で寝ぼけ眼の彼女とまどろんでいると、清潔なホテルマンがワゴンで朝食を運んできた。クロッシュを持ち上げると、目に飛び込んできたのはきれいにスライスされた生の「馬肉」だ。そう、BASASHI。その隣には濃い口醤油。それらをワンバウンドさせたいホカホカのご飯。さらには砕いた「くるみ」をアクセントにした「水菜サラダ」も添えてあり、彼女も目を輝かせている。ホテルマンは「料理長オススメの特製モーニング『熊本直送 新鮮馬刺し定食』でございます。ごゆっくりどうぞ」と微笑みながら部屋を後にする。この部屋には、あなたが体感できる最高のモノが少なくともふたつはある。卵のようにツルンとした彼女のスッピン肌、そして「馬刺し定食」。あなたはどちらにも手が届く。さあ、新しい1日の始まりだ。
というわけで、以上が【定食しりとり公式ルール】である。
大人数でプレイしても、ひとりでも楽しめる。このゲームは懐が深く、なにより酒の肴に最高だ。普通の「しりとり」より面白いことだけは保証できる。騙されたと思って一度プレイしてみてほしい。
ただし、ひとりで「定食しりとり」をしながら帰宅するのはちょっと危険かもしれない。そのまま家に帰ることなどできずに、気がつくと、馬刺しを求めて居酒屋の暖簾をふらっとくぐってしまうはめになるからだ。
SIDE ORDERS :
・さいとうしのぶ『しりとりしましょ! たべものあいうえお 』(2005)
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