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サラーム海上のマジカル・スパイシー・ツアー

現地に赴きその興奮を丸ごと持ち帰る中東料理研究家、
サラーム海上の超本格テマヒマ料理教室!
たまの休日を潰してでも挑戦してみたい、
エキゾな舌の半日紀行。鼻を殴るスパイスが、
キッチン発のショート・トリップへといざないます!

マジカル・スパイシー・ツアー07 / TEXT:サラーム海上 PHOTO:嗜好品LAB ILLUST:鈴木哲哉 / 2016.12.29 ないならつくろう「中東おせち」

 たまの休日、あえて1日がかりで超ド級の本格エスニック料理をつくるこの連載。第7回はお正月に合わせて「中東のおせち料理」にチャレンジだ!
 といっても中東の多くの国は太陰暦に基づくイスラーム暦で動いている。よってお正月休みなんてものはないのだぁ~! 「♪あ~、正月もネエ! 休みもネエ! 餅はもちろん、おせちもネエ! 」(←吉幾三の節回しで)。だったらオレがつくるまでよ!
 というわけで、今回は世界初の試み! 妄想力と創作意欲を全開に、今日も男は厨房に立つのであった……。

中東に「おせち」はない。正月もない。いったい彼らはどう過ごしているのか

 まず「おせち」は冷めても美味いものや日持ちするもので構成するのが鉄則。といっても今は21世紀。揚げ物や焼き物だけで構成されたおせちでは、インスタに日々の飽食をアップしまくる意識高い系女子たちの心は掴めないぜ! まずはレモン汁や高級オリーブオイルをふんだんに使ったヘルシーなサラダやメゼ(前菜)から仕込んでいくことにしよう。
 手元にあるのは三段重ねのお重。「壱ノ重」を飾る4つのペースト系メゼは早起きしてつくっておいたので(そうでもしないと1日じゃ終わらない! つくり方は後述)、「弐ノ重」からスタートだ。

つまみ食いは自炊の特権なのだ! 完成前に腹いっぱいになっちゃうのだ! これでいいのだ!(←シリアのテクノ・アーティスト、オマール・スレイマンと赤塚不二夫による限定コラボTシャツに注目!)

 その前にひとつ。先ほど「中東に正月はない」と書いた。だったら彼らはどう過ごしているのかを説明しなければ。
 たとえば大都市イスタンブルのNEW YEAR。もちろんそこは活気にあふれているし、夜の繁華街であるイスティクラル通りに足を運べば、BARやクラブから「ブーン、ブーン、ブーン、ブーン」と4つ打ちのリズムが響きわたり、年末年始のカウントダウンとともに、若者たちの大騒ぎする声が聞こえてくる。それだけを見ていれば、東京や欧米の大都市と大差はない。しかし一般の住宅街ともなれば、どこもかしこも冬の冷気にシーンと静まりかえっている。大晦日だからってなにも変わらない。元旦も拍子抜けするほどいつも通りだ。銀行も商店もオフィスもしれ~っと開いているし、正月の飾りなんてものはどこにもない。
 だったらインドの正月はどうかって? インド人はとにかくお祭りが大好きだけど、元旦はそれほど重要な日ではない。ヒンドゥー教の太陽暦では10月や11月頃が正月にあたり、「光の行列」を意味する「Diwali(ディーワーリー)」というお祭りが盛大に行われるのだ。加えてクリスチャンが一定数いることから、正月よりもクリスマスのほうが大きな行事となっているのも特徴。クリスマスのド派手な電飾や飾りつけが年を越してもしばらく飾られたまま、しだいにホコリをかぶって薄汚れていくという光景は、インドの冬の風物詩といえよう。

海老味噌に踊るロマネスコ!焼き鳥に見えてもシシケバブ!粋にあふれた「中東おせち」の世界

 中東のお正月事情はこのぐらいにして、料理に戻ろう。まずは「ぶどうと赤玉ねぎとバジルのサラダ」、「ビーツのサラダ」、「タッブーレ」、「ひよこ豆のサラダ」、「カリフラワーのタヒーニソース」、そして「ドライトマトと白身魚のドルマ」を手際よく仕込んでいく。以下の写真とコメントを見てもらえれば調理の大枠はわかってもらえると思うが、これらの料理はサラーム初のレシピ集『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』に掲載したものも多いので、本格派の人はぜひ参照してほしい。

イスラエルの地中海の町、テルアビブのレストランで覚えた「ぶどうと赤玉ねぎとバジルのサラダ」。水にさらした赤玉ねぎとバジルを、レモン汁とオリーブオイル、塩胡椒で和え、食べる直前にぶどうと混ぜ合わせるのだ。
ビーツのサラダ。オーブンでホイル焼きにしたビーツを、レモン汁、オリーブオイル、にんにく、塩、パセリで和えたもの。
続いてはレバノン料理であるイタリアンパセリのサラダ「タッブーレ」。大量のイタリアンパセリとスペアミントは日光在住の友人の家庭菜園から譲り受けたもの!
そぎ切りにしたイタリアンパセリにスペアミント、トマト、玉ねぎ、レモン汁で戻したブルグル(挽き割りにした乾燥小麦)を和え、さらにレモン汁とオリーブオイル、塩で味を決める。
ドライトマトと白身魚のドルマ。お好きな白身魚をバターで炒め、よくほぐしてからカレー粉とディルで味をつけ、それを水で戻したトルコ産のドライトマトに詰め、爪楊枝で留める。今回は「中間魚」であるブリを使用した。

 ここまでできたら火を使う料理に移ろう。おせちといえば、なにはなくとも海老だろう! 海老はヒゲが長く腰が曲がっているため、長寿を祈願した縁起物とされている。さらに、脱皮を繰り返すため、生命を更新し、出世を願うものともされる。おせちの海老はやはりお頭つきじゃないと盛り上がらない。そこで今回は、この夏に訪れたモロッコ北部の町、シャウエンのレストランでいただいたアヒージョ風「海老のタジン」をアレンジしてつくることにした。もともと存在しない「中東おせち」には、こうした「翻訳」こそが重要であり、腕の見せどころでもあるのだ。
 まずは香りのよいエキストラ・ヴァージン・オリーブオイルをたっぷりと使い、にんにく、鷹の爪、海老のお頭だけを炒めることで、味噌の旨味をオイルに移す。残りの海老を投入し、3分間ほどグツグツと揚げ煮にする。塩味はキツめのほうが美味いぞ。余っていたロマネスコを加えたところ、そこにも海老の出汁が染みて最高の出来!

11月下旬に訪れたイスラエル北部のガリラヤ湖産で買ってきた最高級EXVオリーブオイル2リットル缶。中身は輝くような黄緑色! 一斗缶で買ってくればよかった~!
おせちの主役にケチってなんかいられない! オイルは贅沢にたっぷりと。
海老の頭は炒めながら木べらで潰し、海老味噌を油に溶かす。
海老は殻ごと背中に切り込みを入れ、背わたを抜いておくと、味が染みやすく食べやすい。

 焼き物には「鶏のシシケバブ焼き鳥風」はどうだろうか? 鶏肉を、ヨーグルトとにんにく、レモン汁、中東のミックス・スパイス「バハラット」でマリネして、竹串に刺してから、グリルで焦げ色がつくまで焼くだけだ。純和風な焼き鳥そっくりにつくっておいて、口にして初めてケバブだとわかるこのトリックは粋じゃないか?

鶏のシシケバブ焼き鳥風。鶏のもも肉を細かく切ってマリネしたのち……
串に刺していく。見た目と味とのギャップも楽しい逸品である。

メイハネの主役にして「中東おせち」の花形、「坊さんの気絶」とは?

 お次は今回の花形料理のひとつ「ピーマンの冷製ドルマ」に取りかかろう。トルコ料理の「ドルマ」とは詰め物を意味し、また、ピーマンや玉ねぎ、場合によってはムール貝などに「かやくご飯」を詰めて炊き上げたものを指す。大抵は温製または冷製の2種類に分けられ、温製では挽き肉とご飯を詰め、トマトソースで煮るというもの(ロールキャベツやトマト・ファルシを想像してほしい)、いっぽうの冷製は、お米、松の実、ディルなどのハーブやドライフルーツを炒め、野菜に詰めて、たっぷりのオリーブオイルで煮てから、冷蔵庫で冷まし、レモン汁をかけていただくというもの。もちろん「おせち」には冷製である。

まずはピーマンのヘタをペティナイフでくり抜き、種を外す。ここは丁寧に!
玉ねぎとディルはみじん切りに。たっぷりのオリーブオイルでにんにくを炒め、そこに松の実を投入。少し表面が焦げるぐらいがちょうどいい。
続いて玉ねぎ加え、しんなりしたら、洗っておいた米を加え、全体に油が回るまで炒める。
ディルとドライフルーツを加える。通常はレーズンを使うが、今回はトルコ産の甘いクランベリーを採用。
かやくご飯をピーマンに詰めていく。ここで欲張るとのちのち破裂するので注意!
チェリートマトでフタをして、ピーマンが倒れないよう小さめの鍋にツメツメに立てて並べる。
残ったかやくご飯は玉ねぎに詰めてみた。それを鍋の中央に押し込み、レモン汁、塩、砂糖を溶かしたお湯を注ぎ、火にかける。ちょっと割れちゃった手前のピーマンは悪い例です(まぁいいか)。
お米が炊けるまで弱火で45分……。

 もうひとつの花形は、その名も「坊さんの気絶」! 坊さんが気絶するほど美味い料理として、トルコの居酒屋「メイハネ」の主役的な存在だ。たっぷりのオリーブオイルで焼いた茄子の身を縦に切り開き、トマトと玉ねぎの炒めものを詰め、フライパンに並べて、お湯を注ぎ、水分がなくなるまで煮込む。冷蔵庫で冷ましてからいただくと、トマトの甘酸っぱさとトロトロの茄子の食感が混じり、えもいわれぬ味わいだ。こちらも保存が効くので「中東おせち」にはぴったり!

皮を縞に剥き、塩水に漬ける。水分をたっぷり吸っているので、キッチンペーパーにくるんで両手でギューギューと絞るとよい。
たっぷりのオリーブオイルで揚げ煮にする。しっかり水を切ったつもりでも油が跳ねるので要注意!
にんにくと玉ねぎの薄切り、青唐辛子、トマトのざく切りを同じフライパンで炒め、砂糖と塩で味つけ。最後にパセリも。
揚げた茄子に縦に切り込みを入れ、スプーンを使って広げる。
茄子の切り込みに、炒めたトマトと玉ねぎをたっぷり詰める。
フライパンに戻し、塩、レモン汁を溶いたお湯を注ぐ。
ふたをして火にかけ弱火で40分。水分がほとんどなくなるまでじっくりと煮込む。

「おせち」づくりに必要なもの、それは、ヘヴィメタルにも通じる絶対的な様式美!

「坊さんの気絶」を煮込んでいると「ピーマンのドルマ」のお米が炊けたようだ。熱々の状態でも十分に旨そうだが、ここで食べてはいかん! 「ピーマンのドルマ」も、「坊さんの気絶」も、すべては「おせち」のために。食べるのは、少なくとも室温まで冷めてからのお楽しみだ。

「ピーマンのドルマ」の炊きあがり! ピーマンやトマトからも野菜の出汁が出て、かやくご飯にしっかり染み込んでいる。

 これですべての料理が揃った。しかし「おせち」の本番はこれから。最大の見せ場である「盛りつけ」にもこだわるのだ。ここまで料理に手をかけたのだから、100円ショップで売っているようなビニールの笹など使いたくはない。料理が冷めるの待つ間、近くの公園に出かけて鮮やかな紅葉の葉っぱを調達してくることにしよう。

公園では赤や黄色の「天然葉飾り」が入手できた。鮮やかに色づいたモミジやイチョウの葉が、ひと足早い正月気分を盛り上げてくれる。

 公園から持ち帰った葉飾りを水洗いしていると、「おせち」とは紅葉の季節の産物であることにふと思い至った。おせちをつくることは都会生活では忘れてしまいがちな、季節や暦との関係性を思い出させてくれる。そう、おせちづくりは日本という土地への回帰や再発見運動でもあるのだ。う~む、幼少時代からのおせちやお正月にまつわる想いがオレの中を走馬灯のように駆け巡り、ひとり胸を熱くする師走の午後……。
 いかんいかん、冬至は日が短いのだ。さっさと「盛りつけ」に取りかかろう。しかしここで自分の勘や感性だけに頼るというのは愚の骨頂! おせちには、音楽でいえばヘヴィメタルにも通じる絶対的な様式美が存在するのだ。まずはなによりも「型」である。「壱ノ重」「弐ノ重」「参ノ重」への配分はもちろん、祝い肴、煮しめ、酢の物、煮豆、すべてに意味を宿らせていくのだ! おせちの伝統を「自分らしく」だとか「自分を信じて」などという現代人の軽々しい発想で台なしにしてはならない。長い歴史に頭を垂れる者のみが聖杯を手にすることができるのだ! であれば君がやるべきことはただひとつ! インターネットで「おせち」と画像検索することだけだ! すると目の前には古今東西さまざまなな「おせち」の写真が並ぶことだろう。それらから自分のイメージする理想の「型」に近いものを選び、プリントアウトし、手元に置き、目の前のお重と料理と見比べながら、慎重に盛りつけを進めるのだ。心穏やかな日本人は似た色合いのものを隣同士に並べるクセがあるが、華やかな「おせち」にはそれもNG。赤の隣には緑、黄色の隣には紫と、捕色の効果を狙ってド派手にキメよう。
 そうして盛りつけに取りかかること1時間。ようやくできた! 13種類の中東料理から完成したマイおせち! オレだけのおせち!

編集者差し入れの「らっきょうの赤ワイン漬け」やオリーブもしっかり活用し、世界でひとつだけのおせちが完成! おせちなのに中東料理! 中東料理なのにおせち! なんだか涙が出てきた……気づけば編集者も涙ぐんでいる……。

 感動! 思えばこの1年間は短いようで長かった……。2016年の正月は2冊の本の執筆のため自宅引きこもり状態であった。そして3月には双葉文庫版『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』を、5月には『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』を続けて出版。そこからは出版記念イベントと中東料理ワークショップの「出張メイハネ」が続き、東京だけでなく、北は札幌、八戸、福島から、南は福岡、徳島、西は岡山、名古屋までに出張し、中東料理を伝道し続けた。気づけば師走も深まる現在。つまり今回の「中東おせち」はオレにとっての2016年の集大成でもあるのだ! ええい! ここでとっておきの赤ワイン、「ヤルデン・ピノノワール」も空けてしまおう!

サラームも自分のカメラで記念撮影! こんな大変なこと、もう当分やりたくないしね!
インドの正装に着替え、怪しげな広告写真も撮ってもらった! 「マジカルでスパイシーなサラーム特製・中東おせち、2018年のご予約承ります。三段重ねの3万円ではいかがでしょうか?」

いざ実食! これぞ妄想料理の最前線!

 では完成したおせちを見ていこう。まず「壱ノ重」はペースト系。右上から時計回りに、「ラブネ」、「ビーツのペースト」、「ホモス」、「アボカド・ホモス」。

「ラブネ」は水切りヨーグルトにおろしにんにくと塩を混ぜ、そこにタイムの亜種のハーブ「ザータル」とEXVオリーブオイルを垂らしたもの。
「ビーツのペースト」はホイル焼きにしたビーツ、水切りヨーグルト、メープルシロップ、ザータル、にんにく、塩をフードプロセッサーにかけたもの。
「ホモス」はひよこ豆とレモン汁、にんにく、練りごま「タヒーニ」を同じくフープロでホイップクリーム状に。そこにアボカドを足せば「アボカドホモス」となる(しかしアボカドは酸化/変色してしまうのでおせち向きでなかったかも……)
 続く「弐ノ重」は先ほどつくった「ぶどうと赤玉ねぎとバジルのサラダ」、「ビーツのサラダ」、「タッブーレ」、「ひよこ豆のサラダ」、「カリフラワーのタヒーニ・ソース和え」、「ドライトマトと白身魚のドルマ」を並べた。

「ドライトマトと白身魚のドルマ」。仕上げにトルコ産ざくろビネガーをタラ~リと。トマトとざくろはエーゲ海~地中海の太陽の味!
我ながら色鮮やかだねえ! 手前は「ひよこ豆のサラダ」、左奥は「ぶどうと赤玉ねぎとバジルのサラダ」
右は「ビーツのサラダ」、左は「カリフラワーのタヒーニソース」

 そして「参ノ重」はメイン・ディッシュが中心。「鶏のシシケバブ焼き鳥風」、「ピーマンの冷製ドルマ」、「坊さんの気絶」、「有頭海老のモロッコ風アヒージョ」の四天王が揃い踏み!

これがサラーム流の「参の重」。モミジやイチョウの葉が日本情緒を盛り立てるが、あくまで味は中東そのまま!
「鶏のシシケバブ焼き鳥風」と「有頭海老のモロッコ風アヒージョ」。アヒージョはいっしょに揚げ煮にしたロマネスコにも海老の出汁とオリーブオイルが染みて最高!

 では、いざ実食! 「壱ノ重」のペースト類はスプーンを使わず薄切りにしたバゲットですくっていただこう。こうしたペースト類は意外に腹持ちがよく、また酒の肴にもなるので、おせちにも最適だ。「ピーマンの冷製ドルマ」はレモンを絞っていただこう!

バゲットに「ホモス」「アボカド・ホモス」「ビーツのペースト」を塗り「鶏のシシケバブ焼き鳥風」を乗せてみた! この複雑な酸味とスパイス感!
「ピーマンの冷製ドルマ」を切り分けたところ。鍋の中でピーマンが横に倒れてしまうと、かやくご飯の旨味がスープに逃げてしまうので、ぎちぎちに詰めて立てたまま煮るのが美味しく作る秘訣。その甲斐あってドライ・フルーツと松の実の甘さも100%お米に還元されている!

 そして「坊さんの気絶」。トマトや玉ねぎの甘みと揚げ茄子のコンビネーションが最高! 実はこの料理、秋には僕の本のレシピを元にした調理動画が某料理系動画サイトでバズったのだが、しかしその動画では、材料をコトコト煮た途中段階で「完成」となっていて、室温または冷蔵庫で冷やすという肝心の行程が抜けていた。これは断じて許せん! 冷やしていないラタトゥユがラタトゥユでないように、冷やしてない「坊さんの気絶」は「坊さんの気絶」にあらず! 料理レシピには著作権はないから、僕の本からパクるのは許そう。しかし、どうせパクるのなら最後までしっかりパクれや、オンドリャ~!

「坊さんの気絶」はくれぐれもよく冷やしてから!
いったん油で揚げ、さらに水煮にした茄子のトロトロ感がたまらない!

 まぁ新春から怒ってもしかたない。パクられるということは、ここ日本でも中東料理がそれだけ注目されていることの証でもある。2020年の東京五輪に向け、外国人旅行者のさらなる増大が見込まれる現在、ベジタリアンやヴィーガンにも、イスラーム教徒(ハラルフード)やユダヤ教徒(コシェルート)にも対応できる中東料理のニーズは高まるいっぽうであろう。そういう意味でも今回の「中東おせち」は有意義な試みであった。中東おせちこそは眩しいほどの「ブルー・オーシャン産業」と言い切ってしまおう!
 2017年の初夢は、おせち業者として莫大な富を得る自分の笑顔を見そうである。

ピーマンの冷製ドルマ(4人ぶん)

材料

ピーマン:9~10個(小鍋にぎっしりつめられる数)/お米:250g(水洗いして浸水しておく)/にんにく:1かけ(みじん切り)/玉ねぎ:1個(みじん切り)/松の実:40g/ディル:1パック(みじん切り)/レーズンまたはドライ・クランベリー:40g/バハラット(トルコやイスラエルのミックス・スパイス。なければナツメグ、オール・スパイスで代用可):小さじ1/塩:小さじ1/2/砂糖:小さじ1/2/チェリートマト:5個(2つ切り)

玉ねぎ:1個(鍋の隙間に詰めるスペーサーとして)/お湯:200~300cc/レモン汁:1/2個ぶん/塩:小さじ1/2

レモン:1個:薄切り

つくり方

1)ピーマンのヘタをペティナイフでくり抜き、種をはずす。

2)たっぷりのオリーブオイルでみじん切りのにんにくを炒める。玉ねぎと松の実を加え、しんなりしたら、水を切った米を加え、表面に油が回るまで炒める。ディルとドライフルーツ、バハラットを加え、塩と砂糖で味つけし、火を止める。

3)②をピーマンに8分目まで詰める。チェリートマトでフタをして、小さめの鍋を用意し、ピーマンが倒れないように立てて並べ、玉ねぎなどで隙間を埋める。

4)お湯にレモン汁と塩を溶かし、鍋の隙間から鍋の半分の高さまで注ぎこむ。蓋をして火にかけ、沸騰したら弱火で45分、お米に火が通るまで煮る。

5)火から下ろし、室温または冷蔵庫で冷ます。薄切りのレモンを絞っていただく。

坊さんの気絶(5個ぶん)

材料

茄子:5本/玉ねぎ:中1個/トマト:大1個/青唐辛子:2本/にんにく:2かけ(みじん切り)/オリーブオイル:大さじ4 

塩:小さじ1/2/砂糖:小さじ1

塩:小さじ1/2/砂糖:小さじ1/2/レモン汁:1/2個分/お湯:1/2カップ 

イタリアンパセリ:少々(みじん切り)

つくり方

1)茄子は縞状に皮を剥き、塩水(分量外)に10分間浸してから、両手で硬く握って水気をしっかり絞る。玉ねぎは薄切りに、トマトはざく切りにする。青唐辛子は種をとって、ざく切りにする。

2)フライパンにオリーブオイル大さじ3を熱し、茄子を入れて、転がしながら揚げ焼きにする。中まで柔らかくなったら取り出し、油を切る。

3)フライパンの油を拭きとって、オリーブオイル大さじ1を熱し、にんにくを炒める。香りが出たら、玉ねぎと青唐辛子を加える。玉ねぎがしんなりしたら、トマトを加え、2分ほど炒め、塩:小さじ1/2、砂糖:小さじ1/2で味をつけ、火を止める。

4)②の茄子に縦に切れ込みを入れ、スプーンで中を広げて、③を詰めたら、鍋(またはフライパン)に重ならないように並べ、湯:1/2カップ、塩:小さじ1/2、砂糖:小さじ1/2、レモン汁を加え、ふたをして火にかける。沸騰したら弱火にし、30~40分煮る。冷めたら器に盛りつけ、冷蔵庫で冷やす。パセリを散らす。

サラーム海上Salam Unagami
1967年群馬県生まれ。中東料理研究家/音楽ライター/DJ。中東やインドを定期的に旅し、現地の料理や音楽、文化をフィールドワークし続ける。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』(双葉文庫)、『21世紀中東音楽ジャーナル』(アルテスパブリッシング)ほか。朝日カルチャーセンター新宿の講師、NHK FM「音楽遊覧飛行エキゾチッククルーズ」ではナビゲーターを務める。
www.chez-salam.com

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